公的医療保険制度はどんな制度?民間の医療保険との役割の違いについてもわかりやすく解説

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坂内 香澄
専業ライター

早稲田大学 法学部を卒業後、生命保険会社で個人営業や商品開発を経験。現在は金融分野の専業ライターとして活動。取得資格はFP2級、日商簿記3級、銀行業務検定年金アドバイザー3級、銀行業務検定税務3級など。

日本では、医療機関の窓口で健康保険証を見せると、一定程度の自己負担で治療が受けられます。これは、公的医療保険制度に加入しているからですが、具体的にどのような仕組みなのでしょうか。

この記事では、公的医療保険制度の概要から治療費の負担を抑えるために活用できる制度、民間の医療保険との役割の違いまで解説していきます。ぜひ最後まで読んで、公的医療保険制度への理解を深めてください。

公的医療保険制度とは

公的医療保険制度とは、日本国民全員が一定水準の医療を受けられるようにするために設けられた制度です。主な特徴としては、以下の3点が挙げられます。

  • 日本国民全員が加入する「国民皆保険」
  • 自分が受診する医療機関を自由に選択できる
  • 1〜3割の自己負担で、診察や治療を受けられる

最大の特徴として挙げられるのが「国民皆保険」です。日本には大きく分けて3種類の公的医療保険制度がありますが、国民全員がいずれかに必ず加入する仕組みになっています。

医療大国であるアメリカにおいては、公的医療保険に加入できるのは高齢者や障害者、低所得者に限られています。そのため、それらに当てはまらない人たちは窓口で高額な医療費を負担するか、自身で民間の医療保険へ加入するなどして自助努力をしなければなりません。

ただ、保険料が高額であることなどから、いまだに何の保険にも加入していない「無保険状態」の方がアメリカには大勢いるといわれています。

また、日本においては自分が受診する医療機関を自由に選択できます。これは、諸外国と比較しても非常に優れたサービスです。

例えばイギリスでは、受診する医療機関はあらかじめ選択した「かかりつけ医」でなければなりません。さらに、緊急を要する場合でない限り、数週間待たされるケースも多くなります。

日本では当たり前になっていますが、自分の都合に合わせて利用しやすい医療機関を選べるというのは、恵まれた環境であるといえるでしょう。

加えて、日本の公的医療保険制度においては、診察や治療を年齢や収入に応じた1〜3割の自己負担で受けることが可能です。具体的には、以下のとおり区分されています。

年齢自己負担割合
75歳以上1割
※課税所得が28万円以上の場合は2割、145万円以上の場合は3割
70〜74歳2割
※課税所得が145万円以上の場合は3割
6〜69歳3割
0〜5歳2割

これにより、国民全員が高水準の医療を受けられることで、平均寿命の延伸へと繋がっているのです。

公的医療保険制度は大きく分けて3種類ある

公的医療保険制度においては、大きく分けて以下の3種類があります。

  • 被用者保険
  • 国民健康保険
  • 後期高齢者医療制度

それぞれ対象者に違いがあります。詳しく見ていきましょう。

被用者保険

被用者保険とは、企業などに勤める従業員やその従業員が扶養している家族が加入できる健康保険です。被用者保険は、勤務先によってさらに以下の3種類に分けられます。

名称加入対象者
健康保険組合主に大企業に勤務する従業員およびその扶養家族
協会けんぽ(全国健康保険協会)主に会社独自の健康保険組合がない中小企業に勤務する従業員およびその扶養家族
共済組合公務員や教職員およびその扶養家族

支払うべき保険料は4月〜6月の平均給与をもとに算出され、従業員と企業で折半します。扶養家族が追加された場合であっても、保険料は変動しません。

国民健康保険

国民健康保険とは、自営業者やフリーランス、勤務先を退職した方などが加入する健康保険です。被用者保険とは異なり、扶養家族を加入させるといったことはできず、それぞれの加入者が保険料を負担しなければなりません。

国民健康保険に加入するにあたっては、以下の3点について注意が必要です。

  • 国民健康保険加入者の保険料は、世帯主が支払わなければならない
  • 保険料は全額自己負担
  • 勤務先を退職して国民健康保険に加入する場合は、原則14日以内に手続きをしなければならない

例えば、世帯主の夫が健康保険組合に加入、フリーランスの妻が国民健康保険に加入しているとしましょう。その場合、国民健康保険の加入者は妻ですが、保険料負担の義務を負うのは世帯主である夫です。

また、被用者保険の場合は保険料を従業員と企業で折半して負担することとなりますが、国民健康保険の場合は全額負担しなければなりません。

加えて、勤務先を退職すると、被用者保険を任意継続するか国民健康保険に加入するかを選ぶ必要があります。国民健康保険への加入を選択した場合は、退職日から14日以内の手続きが必要です。

そのため、国民健康保険に加入するにあたって必要となる書類を確認し、退職日までに準備しておくことが望ましいでしょう。

後期高齢者医療制度

後期高齢者医療制度とは、75歳以上の高齢者および一定の障害を有すると判断された65歳以上の方が加入する健康保険です。保険料は、加入者全員が均等に払う「均等割額」とそれぞれの収入状況に応じて変動する「所得割額」の合計額になります。

令和4・5年度における具体的な保険料例(月額)は、以下のとおりです。

基礎年金受給者
(年金収入78万円)
厚生年金受給者
(年金収入186万円)
東京都1,160円4,543円
全国1,194円4,559円
出典:厚生労働省「後期高齢者医療制度の令和4・5年度の保険料率について」

保険料率は都道府県ごとに異なるため、実際の保険料についてはお住まいの自治体に確認しましょう。

治療費の負担を抑えるために利用できる制度

公的医療保険では、1〜3割の自己負担で診察や治療を受けられます。ただ、大きなケガや病気によって、医療費が高額になってしまったり、働けなくなって収入が減少したりすることもあるでしょう。

その場合は、以下の2つの制度が利用できます。

  • 高額療養費制度
  • 傷病手当金

どちらも家計における治療費の負担を軽減させるために設けられている制度です。それぞれ詳しく見ていきましょう。

高額療養費制度

高額療養費制度とは、同月内に医療機関で支払った金額が自己負担上限額を超えた場合に、その超えた分が給付される制度です。自己負担上限額は、高額療養費の給付を受ける方の年齢や収入に応じて以下のとおり異なります。

<69歳以下の場合>

適用区分ひと月の上限額(世帯ごと)
年収約1,160万円〜252,600円+(医療費−842,000)×1%
年収約770万円〜約1,160万円167,400円+(医療費−558,000)×1%
年収約370万円〜約770万円80,100円+(医療費−267,000)×1%
〜年収約370万円57,600円
住民税非課税者35,400円
出典:厚生労働省「高額療養費制度を利用される皆さまへ」

<70歳以上の場合>

適用区分外来(個人ごと)ひと月の上限額(世帯ごと)
年収約1,160万円〜252,600円+(医療費−842,000)×1%
年収約770万円〜約1,160万円167,400円+(医療費−558,000)×1%
年収約370万円〜約770万円80,100円+(医療費−267,000)×1%
年収156万円〜約370万円18,000円(年144,000円)57,600円
Ⅱ 住民税非課税世帯8,000円24,600円
Ⅰ 住民税非課税世帯
(年金収入80万円以下など)
15,000円
出典:厚生労働省「高額療養費制度を利用される皆さまへ」

自己負担額がいくらとなるのか、具体例を挙げて計算してみましょう。例えば、35歳で年収700万円の方が医療費として50万円かかったとすると、自己負担上限額は以下のとおりになります。
※ここでいう医療費とは、健康保険が適用される前(10割)の金額

80,100円+(500,000−267,000)×1%=82,430円

実際に窓口で支払う金額は15万円(50万円の3割)であるため、差額の67,570円が高額療養費として支給されます。ただ、入院や手術などによってあらかじめ医療費が高額になることが想定できる場合は「限度額適用認定証」の利用がおすすめです。

詳細については、以下の記事をご確認ください。

高額療養費と限度額適用認定証の違いって何?それぞれの制度の概要から違いまで徹底解説

傷病手当金

傷病手当金とは、病気やケガを原因として働けなくなってしまった場合に、加入している健康保険から給付が受けられるものです。1日あたりに受け取れる傷病手当金は「直近12ヶ月の平均月収÷30×2/3」で、通算して1年6ヶ月まで受け取れます。

例えば、平均月収が45万円の方であれば、1日あたり10,000円が受け取れることとなります。ただ、傷病手当金の受け取りに際しては、以下の全ての要件を満たさなければなりません。

傷病手当金の支給要件
  • 業務外の事由による病気やケガのための休業であること
  • 仕事に就くことができないこと
  • 連続する3日間を含み4日以上仕事に就けなかったこと
  • 休業した期間について給与の支払いがないこと

出典:全国健康保険協会「病気やケガで会社を休んだとき(傷病手当金)」

加えて、傷病手当金は会社員や公務員などを対象とした制度です。国民健康保険に加入しているフリーランスや自営業の方は対象外となる点には注意しましょう。

民間の医療保険との役割の違い

公的医療保険制度が充実していることから、「民間の医療保険に加入しなくても問題ないだろう」と考えている人が一定数います。しかし、公的医療保険制度も万能ではありません。

例えば、以下のような費用に関しては公的医療保険は適用されず、全額自己負担となります。

  • 差額ベッド代
  • 入院中の食事代
  • パジャマやタオルなどのレンタル代
  • 先進医療や患者申出療養などの費用

これらの費用を支払うためには、あらかじめ保障などを準備しておく必要があります。そのために、民間の医療保険があるのです。

ただ、民間の医療保険は、あくまでも公的医療保険制度の補完であることを忘れてはいけません。必要以上の保障を準備すると、保険料の支払いによって家計を圧迫してしまいます。

民間の医療保険に加入する際には、自身にはどのような保障が必要なのか、保険でいくら準備しておくべきかを計算しておきましょう。

まとめ:公的医療保険制度を理解した上で生命保険への加入を検討しよう

ここまで、公的医療保険制度の概要や治療費を抑えるために利用できる制度、民間の医療保険との役割の違いについて解説しました。

日本では公的医療保険制度によって、国民全員が平等に医療を受けることが可能です。しかし、公的医療保険制度が適用されない費用に関しては、各々で保障を準備しておかなければなりません。

もしものときに家計を圧迫せずに治療の選択肢を広げられるよう、民間の医療保険に加入することもあわせて検討しましょう。