がんになったらいくらかかる?がんの最新の動向や治療の選択肢についても解説

この記事を書いた人
アバター画像
坂内 香澄
専業ライター

早稲田大学 法学部を卒業後、生命保険会社で個人営業や商品開発を経験。現在は金融分野の専業ライターとして活動。取得資格はFP2級、日商簿記3級、銀行業務検定年金アドバイザー3級、銀行業務検定税務3級など。

「がんになると、実際いくら必要になるのかな」「治療法によっては何百万円もかかるって本当?」

このように、がん治療に関する不安や悩みを抱えている方は多いのではないでしょうか。

そこでこの記事では、がんの最新動向やがん治療の選択肢を踏まえ、がんになった際に必要となる費用について解説します。ぜひ最後まで読んで、この記事の情報を役立ててください。

最新のがんの動向

1981年以降、40年以上にわたって日本人の死因第一位となっている「がん」。ただ、近年は早期発見できれば治る確率が高くなってきています。

ここでは、最新のがんの動向について解説します。

いまや2人に1人ががんになる時代

一生涯のうち、男性は65.5%、女性は51.2%の方(約2人に1人)ががんになる1といわれています。2019年に診断されたがんの中で、罹患者数が多い部位は以下のとおりです。

1位2位3位4位5位
男性前立腺大腸肝臓
女性乳房大腸子宮(全体)
全体大腸乳房前立腺
出典:公益財団法人がん研究振興財団「がんの統計2023(2019年 部位別がん罹患数)」

また、年代別の罹患者数についても見てみましょう。

男性女性
20代未満1,640人1,488人
20代1,782人5,416人
30代5,007人20,704人
40代17,390人50,626人
50代47,449人59,793人
60代142,399人89,948人
70代241,345人132,353人
80代以上166,943人138,746人
出典:公益財団法人がん研究振興財団「がんの統計2023(2019年 部位別年齢階級別がん罹患数・割合)」

男性は40代から、女性は30代から罹患者数が増えていることがわかりますね。若くてもがんにかかる方は一定数いるため、定期的に検診を受けることが大切です。

長期入院から短期入院+通院へ

がん治療における入院は、一昔前までは長期入院が主流でした。しかし、近年は入院期間が短くなり、通院で治療を行う人が多くなっています。

実際にどれほど入院日数が短縮されたのでしょうか。以下は、1996年〜2020年にかけてのがん全体における平均入院日数の推移です。

約25年間で入院日数は1ヶ月近く短縮されたことがわかりますね。加えて、入院ではなく通院で治療を行う人の割合がどれだけ増えたのかも見てみましょう。

外来受療率入院受療率
1996年101人107人
2002年94人109人
2008年123人111人
2014年135人102人
2020年144人89人
※人口10万人あたりの受療者数
出典:厚生労働省 患者調査「受療率(人口10万対)の年次推移、入院−外来×傷病分類別(平成8年〜令和2年)」

表を見るとわかるとおり、入院よりも外来にて治療する方が増えています。

  • 医療の進歩によってがんが早期発見できる病気になったこと
  • 入院せずとも通院で治療が可能となったこと

このような背景もあり、がんは入院日数短期化、外来受療率上昇といった傾向へ移り変わりました。

がん治療の選択肢

がんの治療においては、主に3大治療が行われ、場合によっては保険適用されない治療もあわせて行うことになります。それぞれの治療法について解説します。

がんの3大治療とは

がんの3大治療とは以下のものをいい、これらを組み合わせながら治療を進めていきます。

  • 手術
  • 抗がん剤治療
  • 放射線治療

3大治療としてまず挙げられるのが「手術」です。手術とは、がんを取り除く外科的治療のことで、入院して受けるケースが多くなります。手術は体に大きく負担のかかる治療法ですが、近年では体への負担を軽くし、傷跡を目立たなくする内視鏡手術などもあります。

2つ目は「抗がん剤治療」です。抗がん剤治療とは、点滴や注射、服薬によって体内に薬剤を取り入れる治療をいいます。

抗がん剤治療の最大の目的は「がんの増殖を抑える」こと。しかし、血液を通して全身に薬剤が運ばれることから、がんに冒されていない正常な細胞にも攻撃してしまうことがあります。そのため、副作用がある点には注意しましょう。

また、抗がん剤治療は一般的に1回の投与で終わるものではありません。投与1回につき休薬期間を含め約1ヶ月を「1クール」とし、それを数回にわたって繰り返します。治療状況によっては、半年〜1年ほどの治療期間が必要となるでしょう。

ただ、抗がん剤治療は日常生活を送りながら通院で行うケースが増えています。これが「外来受療率上昇」へと繋がっている要因です。

3つ目は「放射線治療」です。放射線治療とは、がんに冒されている細胞にめがけて放射線を照射する治療法をいいます。局所的な治療となるため、抗がん剤治療よりも正常な細胞に対する攻撃を少なくできるのが特徴です。

放射線治療は数日〜数週間、長いと数ヶ月にわたって毎日行われ、通院によって治療を受けるケースが多くなっています。

保険適用されない治療とは

保険適用されない治療とは、治療にかかる費用(技術料)に健康保険が適用されず、全額自己負担となるものをいいます。保険適用されないものとしては、主に以下の3つがあります。

  • 先進医療
  • 患者申出療養
  • 自由診療

まず、先進医療とは、厚生労働大臣によって認められた医療技術であり、かつ先進医療を実施するに値すると認められた医療機関でのみ受けられる治療法です。将来的に保険適用とするための臨床段階の治療法であり、2023年12月1日現在、80種類の技術が登録されています。

続いて、患者申出療養とは、患者より日本国内で未だ承認されていない薬剤を用いて治療したいといった申し出があった場合に、安全性や有効性を確認した上で実施される治療法です。先進医療と同じく将来的に保険適用とするためのデータを集めることが目的とされており、2023年12月1日現在において10種類の技術が登録されています。

これら2つの治療法に関しては、保険適用となる入院費等について「保険外併用療養費」として健康保険から給付を受けることが認められています。そのため、全額自己負担となるのは先進医療や患者申出療養の技術料に関する部分です。

最後に、自由診療とは、厚生労働省によって治療法としての有効性が認められていない(日本では未承認である)治療法をいいます。自由診療は健康保険との併用が認められていないため、通常の治療であれば健康保険が適用となる入院費なども全て自己負担となります。

がん治療において必要となる費用

がん治療にあたって、必要となるのは治療費だけではありません。入院時には差額ベッド代や食事代などの費用についても別途負担する必要があります。実際どれほどのお金がかかるのか見ていきましょう。

治療費

厚生労働省の「医療給付実態調査」によると、がんにおける平均的な治療費は以下のとおりです。

入院中の平均治療費外来時の平均治療費
全がん(悪性腫瘍)の平均約718,000円約64,000円
胃がん約656,000円約44,000円
肝がん約638,000円約60,000円
肺がん約718,000円約113,000円
乳がん約592,000円約59,000円
子宮がん約639,000円約33,000円
※「点数÷件数×10」によって算出した数字を千円単位で四捨五入
出典:厚生労働省 令和2年度 医療給付実態調査「疾病分類別、診療種類別、制度別 件数・日数(回数)・点数(金額)」

上記は健康保険が適用される前の金額です。そのため、実際の負担額は年齢や年収に応じて上記金額の1〜3割となります。

ただ、自己負担が必要となる先進医療や患者申出療養を受ける場合は、さらに治療費が高額になります。医療機関によって金額に幅はありますが、先進医療に登録されている陽子線治療はおよそ284万円〜314万円、重粒子線治療はおよそ314万円〜350万円です。

その他全額自己負担となるもの

治療費以外に全額自己負担となるものとしては、主に以下のものが挙げられます。

  • 差額ベッド代
  • 入院中の食事代
  • パジャマやタオルなどのレンタル代

差額ベッド代は、患者の意思によって個室などに入院した場合に徴収される金額です。2022年7月1日時点において、1日あたりの差額ベッド代の平均徴収額は以下のとおりです。

1人室8,322円
2人室3,101円
3人室2,826円
4人室2,705円
合計6,613円
出典:厚生労働省 第548回中央社会保険医療協議会「主な選定療養に係る報告状況」

また、入院中の食事代は、厚生労働大臣によって標準負担額が定められており、1食につき460円2です。

さらに、医療機関によってはパジャマやタオルなどの持ち込みができず、レンタルのみ取り扱っているところもあるでしょう。その場合は、1日あたり平均500円程度のレンタル代も負担しなければなりません。

差額ベッド代やレンタル代は病院ごとに料金設定が異なるため一概にはいえませんが、上記をもとに計算すると、1人部屋に入院した場合は1日あたり10,202円の費用が発生します。

上記以外にも、通院で治療を行う場合は交通費、保険金を請求する場合は診断書作成料も必要です。

このように、治療費以外にも様々な出費がある点は覚えておきましょう。

がん治療の際に利用できる公的医療保険制度

がんで治療を受ける際には、公的医療保険制度が利用できます。健康保険に加えて利用できる制度としては、主に以下の2つが挙げられます。

  • 高額療養費制度
  • 傷病手当金

高額療養費制度とは、同じ月に窓口で支払った金額が自己負担上限額を超えた場合に、その超えた分を給付してもらえる制度です。自己負担上限額は、その人の年齢や収入によっても異なるため、厚生労働省のHP等で事前に確認しておきましょう。

あらかじめ治療費が高額になることが予測できている場合は、限度額適用認定証を利用することで、窓口での支払額が自己負担上限額に抑えられます。限度額適用認定証については、以下の記事もあわせてご覧ください。

高額療養費と限度額適用認定証の違いって何?それぞれの制度の概要から違いまで徹底解説

ただ、高額療養費制度の対象となる治療費は、健康保険が適用されるものに限られます。そのため、先進医療や患者申出療養など、技術料が全額自己負担となる治療に関しては利用できません。

また、がんは通院で長期にわたって治療するケースが多くなるため、すぐに今までどおりの生活に戻れない人もいます。そうなると、収入の減少にも繋がりかねません。そのような場合には、傷病手当金の申請をしましょう。

傷病手当金とは、業務外の病気やケガで休業しその間に給与が支払われないときに、平均月収のおよそ3分の2の金額が通算1年6ヶ月受け取れる制度です。しかし、この制度の対象者は会社員や公務員です。国民健康保険に加入している自営業やフリーランスの方は傷病手当金が受け取れない点には注意しましょう。

公的医療保険制度については、以下の記事で詳しく解説しているため、あわせてご覧ください。

公的医療保険制度はどんな制度?民間の医療保険との役割の違いについてもわかりやすく解説

高額療養費制度や傷病手当金などを利用した場合でも、長引く治療は家計を圧迫してしまいます。さらに、より高度な医療技術である先進医療や患者申出療養を受けるためには、高額な費用を準備しなければなりません。

そのため、治療の選択肢を広げるためにも、あらかじめ保険に加入しておくことがおすすめです。

まとめ:がんになったときに備えて用意しておくべき金額を考えよう

ここまで、がんの最新動向やがん治療の選択肢、そして実際にかかる費用の平均額について解説しました。

実際にかかる費用は部位やステージ、治療法によっても大きく異なります。また、治療費以外にも差額ベッド代や食事代なども負担しなければなりません。

ただ、治療費が高額になった場合には、高額療養費制度を利用し自己負担額を抑えることが可能です。さらに、がんになったことによって休職せざるを得なくなってしまった場合などは、傷病手当金の給付もあります。

しかし、公的医療保険制度を利用したとしても、長引く治療にはお金が必要です。この記事で掲載した平均額を参考にしながら、公的医療保険制度から給付される金額を踏まえ、備えておくべき金額を考えましょう。

  1. 出典:公益財団法人がん研究振興財団「がんの統計2023」 ↩︎
  2. 出典:全国健康保険協会「入院時食事療養費」 ↩︎